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調整池工事でわかった事業の問題点(1)  

更新日:1 日前

第1章 1号調整池の設計ミス発覚!


1号調整池の工事現場(R6(2024年)7月21日)

 海老川上流地区の工事が遅れている。2024年11月10日現在、土砂搬入も調整池工事も、ほとんど止まっている。一つには医療センターの施工業者の入札ができなかったからだ。

 去る9月17日、船橋市は「書類を出していた会社1社が、直前になって入札を辞退してきた」と議会に報告した。その1社とは、海老川上流地区土地区画整理組合の業務代行者(株)フジタと、同組合の幹部の(株)ティーエスケーという市内業者の共同企業体だ。 

 事業の内部事情に詳しく、市とも面識がある両社が演じた入札辞退劇。理由は「この条件では請けられない」だった。


 様々な憶測が飛んでいる事件だが、本稿はこれについては触れない。もう一つ、工事を遅らせる重大な問題が発覚したからだ。当会(流域治水の会 船橋)の調査でわかったその事実を、3回にわたって紹介する。難しい専門用語がたくさん出てくるが、お許しいただきたい。


2024年6月、市民技術者たちが調査開始


 当会は2024年6月から調整池問題に本格的に取り組んでいる。問題意識の出発点は、「あの地下水位の高い軟弱地盤に、本当に深さ4mもの調整池が造れるのか」ということだ。

 そもそも調整池は市が唯一の洪水対策として掲げ、「これをつくるから海老川流域の洪水対策は万全」と言い続けているもの。しかし調整池は事業地内を水害から守るためのものであって、流域を洪水から守るためのものではない。その治水の常識を、市は知っているのに知らない振りをしている。だから予備知識がない人は、「船橋市はちゃんと洪水対策をしている」と思っているだろう(※1)。


 そこで当会は河川や土木の技術者、建設系NPO理事長、調整池や水道などの水関係施設の建設に携わるエンジニア、一級建築士と協力して、工事が進む医療センター予定地脇の1号調整池の調査に乗り出した。


 情報公開請求して得た文書は複数の設計図面、構造計算書、工事に対する助成金の交付申請書、工事の完了実績報告書、関係者の協議記録など、多岐にわたる。


 検討を重ね、手続きに関する疑問と技術に関する専門的な質問の2つを市に提出したのは7月29日。その回答が来たのは10月4日。それを踏まえ10月7日に面談の席が設けられた(※2)。以下は市と私たちのやり取りの中で発覚したことである。




安全無視で始まった1号調整池工事


 驚いたことに、1号調整池は、工事の安全性や実現性を証明する「構造計算書」が組合から市に出される前に工事が始まっていた(2022年12月1日ごろ)。市はそれを容認。構造計算書が出されたのは2023年4月17日。最終的に工事内容が承認されたのは、2023年8月21日のことだった。工事開始から8か月後のことである(表1参照)。

 また工事に先立って提出されるべき調整池の排水計画も、市に出されなかった(この書類は2024年10月時点でも組合から市に出されていない)。


 組合も市も、洪水シミュレーション(県の都市計画審議会の求めに応じて行われたもの)で待たされた時間を取り戻すことばかり考えて、決められた手続きも安全確認もすっ飛ばし、見切り発車したとしか思えない。特に事業組合の業務代行者で工事受注者のフジタは「早く工事をさせろ」と大騒ぎしたと当会は地主達から聞いている。



*- 表1 ●工事の流れ --------------------------------*

2022年8月19~21日

市が洪水シミュレーションの市民説明会を開催。県の河川工事を検証条件に加えて検証したことに市民が反発。しかし「説明会が終わるまで組合には工事を待ってもらった。だからもう工事を止められない」と杉原弘一都市政策課長(当時)

2022年8月29日

事業組合が海老川上流地区の造成工事開始(草刈りから)

2022年11月17日

組合が千葉県に無届けで盛り土の搬入開始。手続きのため、県から搬入を止められる(約1カ月間)

2022年12月1日ごろ

1号調整池の工事開始。以後切れ目なく工事進行

2023年4月17日

1号調整池の構造計算書が組合(フジタ)から市に出される

2023年6月2日

構造計算書を検討した結果、条件や懸念が組合に示される

2023年8月21日

その懸念を解決するための協議が組合と市で行われる。新しい構造計算書が出されることはなく、協議だけで済まされた

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液状化対策の失敗と水害対策の失敗


 1号調整池の構造計算書などを精査した結果、私たちは2つの大きな設計ミスを発見した。液状化対策の失敗と水害対策の失敗である。


①  液状化対策の失敗


 構造計算書によると、組合は大地震が襲ってきたときのことを考え、「置き換え砕石」という方法で液状化対策を考えていた。下から砂交じりの土が噴き出すのを砕石で抑える方法だ。しかし今フジタは別の方法で液状化対策をやり直すことにしたという。その理由と次なる方法は明らかになっていないが、私たちは構造計算書は甘い数字で計算されていること、また軟弱地盤ゆえ砕石が沈んで機能しない恐れがあると7月に指摘していた(解説 参照)。液状化対策するなら池の外も地盤改良するしかないのではないか、というのが私たちの考えだ。




*- 解説 ●構造計算書は信用できない -----------------------*

 フジタがつくった構造計算書の土質定数やせん断抵抗角φ、層厚などの数値が「地質調査報告書」「ボーリング柱状図」などの数値と異なっている。つまり構造計算書は何を根拠につくられたかわからないということ。

 また安定計算は比較的地盤の良い、地下約10mまでを対象に行っているが、実はその下に地下約18mまでN値0という豆腐並みに軟らかい地盤が続いている。それを考慮していない。(※3)

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②    水害対策の失敗~伏兵「念田川」の脅威


 フジタがつくった1号調整池の計画図を見ていただきたい。調整池という空っぽのコップには、病院用地側から流れ込む12,750㎥の雨水が溜まることになっており、それをポンプで念田川に流す仕組みだ。この水量は「事業地内を水害から守る」ために県が規定しているもので、絶対に確保しなければならないものだ。

 その調整池の脇には市管理の普通河川、念田川。大雨の時でも溢れない前提になっている。だから調整池の壁の鋼矢板(こうやいた)の頭(コップの縁)は、念田川の土手より低く設計されている。



 ところが、この念田川はとんだ曲者だった。当会の調査で、ちょっとした大雨(累加雨量約90ミリ)で溢れてしまう川であることがわかったのだ。するとどうなるか。鋼矢板の頭が低いので、溢れた川の水が土手を乗り越え、簡単に1号調整池に流れ込んでしまうのだ。つまり空のコップは、規定量が溜まる前に念田川の水でいっぱいになってしまう。




 大問題である。県が決めた水量が溜められないなら設計変更しなければならないからだ。市がそれに気づいたのは、当会が市に念田川溢水の情報提供をした、今夏以降ではないだろうか。しかし1号調整池は既に鋼矢板を打ち込んで壁を造り、地盤改良をすませ、深さ3.8mのコップの中の掘削まで始めている。



愚策。 壁を造って調整池を守る作戦 


 ここまで進んで今さら設計変更はできない。やり直したらさらに工事が遅れ、病院建設に

影響が出てしまう。フジタも市もそう思ったのだろう。


 そこで考えたのが念田川と調整池の間に壁を造ることだった。 え? そんなことをしたら、溢れた川の水は壁にぶつかって西側に逆流してしまう。


 思い出してほしい。2022年に市が行った洪水シミュレーションでは、事業地に盛り土をすることによって、川の水が西側に逆流し、一帯の浸水深が増えるという結果が出たことを→ 市の洪水シミュレーションを検証する(3) 被害が増加する住民を放置) あのときのシミュレーションは海老川などの二級河川の溢水だけを対象にしたが、今度はそこに念田川の溢水が加わるのだ。

 つまりシミュレーションで検証した時より大量の水が壁にぶつかって、跳ね返ることになる。川の西側が危ない!




 安全性の検証をせぬまま工事を強行したツケが、今、液状化対策と水害対策の失敗となって表れている。フジタが犯した設計ミス。図面チェックでそれを見落とした市。それが工事の遅れを呼び、市民の命と財産をさらに危険にさらすことになった。

 フジタは一企業だから請け負った事業地内のことしか考えないかもしれないが、市は違う。フジタを指導して、市民が被災しない計画に改めさせるのが責務だ。また開発より先に念田川の拡幅工事(排水能力を高める工事)をするべきだろう。

 メディカルタウン構想を進めたいなら、抜本的な計画の見直しが必要なのである。


 

以下に続きます。記事のアップまで、もう少しお待ちください。

第2章 関係者協議がない! 調整池工事からわかった事業の問題点(2)

第3章 助成金がおかしい! 調整池工事からわかった事業の問題点(3)


 

※1 メディカルタウンの予定地(海老川上流地区)の中には6つ調整池が造られるが、2024年11月現在、着工しているのは1号調整池だけである。調整池ができないうちに盛り土をすると大雨のとき周辺に雨水が溢れて危険なので、「ブロックごとに調整池ができてから造成工事をする」と市(2021年10月、杉原弘一都市政策課長・当時)。


※2 面談には事業主である海老川上流地区土地区画整理組合(伊藤英彦理事長などの地主たち)や、設計施工を担当する(株)フジタにも出席を求めたが、拒否された。ただ今回市が、市民の疑問に向き合い、対話を求める声に応じたことは評価できる。


※3 フジタが提出した1号調整池のボーリング柱状図


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