工事開始を間近に控えた昨年(2022年)1月18日、第195回千葉県都市計画審議会は大荒れに荒れました。複数の委員から「海老川上流地区開発は氾濫原(遊水地)をつぶす計画で洪水の危険がある」と厳しく指摘されたからです。「事業による海老川流域の治水への影響を調べ、市民の理解を得られるように丁寧に説明せよ」と意見を付けられた市は、やむを得ず工事開始を止め、洪水の検証(シミュレーション)を実施しました。
その結果市は、「事業によって海老川下流域の浸水深は概ね減少することがわかった」として、組合と㈱フジタが工事を始めるのを許しました。あたかも事業によって洪水リスクは減少するとでもいわんばかりのこの説明は、事業を正当化する根拠として、市の公式な文書にも用いられています。
けれども、市が行ったシミュレーションをめぐってたくさんの問題があることは、このホームページで再三お伝えしたとおりです。昨年8月に行われたシミュレーション結果の市民説明会でも、「やり方がおかしい。これではとても安心できない」という声が参加者からたくさん上がりました。
結論から言いますと、早く工事を始めたい組合のために、市は一刻も早く治水上問題はないという結果を出そうとしたと、私たちは考えています。そのためにかなり無理をした様子がうかがえます。ただそうした無理を市民から指摘されても、市は上記の主張を改める様子はありません。
そこで改めて、当会が情報公開請求で得た資料も交え、不透明な手続きで行われたシミュレーションと、それをめぐる問題を3回に分けてお伝えします。
急遽変更された検証条件
シミュレーションでは、事業前と事業後のハザードマップを比較して浸水深などの変化を調べるという手法が取られました。検証結果は5月に市民に説明される予定でしたが、説明会直前の5月13日、市は市議会に「検証をやり直す」と連絡。理由は「県から検証条件に県の2つの河川工事を加えるよう指示があったから」というものでした。県は後日「河川工事を提示しただけ」と「指示」を否定。責任のなすり合いになりました。
検証条件に県の河川工事を入れることには、一部の市議や市民から批判の声が上がりました。
県の河川工事を検証条件に入れたら、事業による浸水への影響がわからなくなる!
県の河川工事を条件に入れたら、結果は良くなるに決まっている。事業を安全に見せかけるためのトリックだ!
いつ始まっていつ終わるかわからない県の河川工事を、なんで検証条件に入れるんだ!
土地開発をするなら、県の工事が終わって安全性が担保されてからやるのが当たり前。順番が逆!
けれどもこうした批判に応えることなく、市は市民説明会から8日後の8月29日、組合/㈱フジタに工事の開始を許します。「県に言われたようにシミュレーションを行い、事業は治水的に問題ないとわかった。またそれを市民に説明したので、これ以上工事開始を止められない」ということでした。
事業によって海老川下流域の浸水深は減るのか?
以下は昨年末、市民の求めに応じて市がホームページにアップした、県の河川工事を入れない場合の「事業前」と「事業後」の浸水深の増減図です。赤いところが浸水深が増すところ。青いところが浸水深が減るところです。海老川下流域の大半の浸水深は「事業前」と変わらないという結果になっています。一方で事業地の周辺では浸水深が増しています。
本来はこれが5月に発表されるはずでした。けれどもこの結果では治水上問題はないと言えなかったのでしょう。だから県が提示した河川工事を入れて急遽シミュレーションをやり直した、というのが真相ではないでしょうか。
( 県の河川工事を入れた図は「(3)被害が増す住民を放置 」をご覧ください)
※疑惑の検証については、文春オンラインの記事に、より詳しく書かれています。
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